花ぷら

花ぷら14(2014/1)

ガクン、と何度か揺れながら、さとうきび列車が動き出す。
なんだか遊園地の列車にでも乗っているような気分になってきた。観光のピーク時などは、たくさんの観光客を乗せて走るのであろうが、この列車は全部で30人ほどしか乗っておらず、あちこち好きな席へ移動できるほどである。
木製の向かい合い座席で、客席の窓ガラスがないため、心地よい風や空気感、そしてレールや台車周りの音も直(じか)に聴きながら走ることができる。
観光地におけるこういった乗り物では、よく BGM が流されていたりすることがある。たとえばこんな列車が走りだすと、陽気なカントリー・ウェスタンが流れてきたりする。その場の状況とどういう関係があるのかわからない音楽が流れてきているのに、なぜか自然に受け止めていたりすることもある。場合によっては単にラジオの DJ 番組を大きめに流している場合だってある。
しかしいま、この列車に BGM は流れていない。そう、これがいいのだ。余計な BGM は流さなくてよろしい。
ふと見ると、手すりの部分にはクジラがあしらわれている。

列車は、ホノアピイラニ・ハイウェイと名付けられた、マウイ島西海岸沿いの道路に沿って、シュッシュッとか、ガッチャンガッチャンとか、ギシギシとか、ときおりポォーッとか、いろんな音を出しながら、のんべんだらりと走っていく。自動車はスイスイと列車を追い抜いていく。その向こうには美しい海が輝いている。
列車はもちろん、踏切を通ることもある。この線路の左手に並行して走っている道路に出ようと右手からやってくる車にとっては、この線路を渡らねばならない。まさに海岸道路に出ようという手前で、この、まるでスピード感のない列車に阻まれるというわけだ。
それでも、列車の通過を待っているドライバーには、なにも焦るような様子はない。観光気分の乗客に、手を振り返してくるドライバーもいる。これがもし日本なら、「何のんきに手ェ振ってんだよ。こっちゃぁ急いでんだよ、仕事なんだよ!」といった表情で睨みつけられるかもしれない。

その場所に仕事で来ている人と、遊びできている人が居合わせた場合、仕事をしている人の方が尊重されるべきというのが、日本では一般的なのかもしれない。しかし逆に、自分の金儲けのために仕事をしている人こそ遠慮すべきであるという考え方もある。
確かに高度経済成長時代であれば、産業に携わる者こそ社会の中で尊い存在だったのかもしれない。しかし、すでに人口縮小と高齢化率の高まりを迎えている日本は、こういった「どちらがより優先されるべきか」といった発想そのものを見直すべきなのかもしれない。
それにしても、さとうきび列車が通る踏切は、東京周辺などにまだまだ残る、急速な時代の変化に追いつけなかった踏切と違い、苛(いら)立ったり、悲しい事故が起こったりするような踏切ではなさそうだ。


右側を見ると、わりと住宅などが線路のすぐ近くまで迫ってきているような区間もある。
海が近くて住宅も迫るといえば、関東あたりでは「江ノ電」だ。あそこも観光に大きく寄与しているが、地元の人たちの日常の足としても意味がある。しかしこのさとうきび列車はいま、非営利団体が運営し、観光客を乗せるための鉄道となっている。
この列車を楽しむ観光客が、かつてのさとうきびプランテーション時代に関心を寄せるかどうかはあまり期待できないが、蒸気機関車をはじめとした古い鉄道設備を維持・運営している人たちは、その意味や歴史についても保存していきたいと考えているのかもしれない。

しばらく行くと、いかにも撮影ポイントのような風景に出合う。
谷を渡る、木組みで作られた橋を、カーブを描いて通過するのだ。そしてその先は、ゴルフ場を突っ切っていくようになっている。
これは美しい風景だ
左手に見えるのは、カアナパリ・ゴルフ・コースの4番ホール、グリーン奥付近である。左端の樹木の向こう側には、バンカーが隠れている。
と、分かったようなことを書いてはいるが、私はゴルフとは無縁の人間である。

客車の連結部分をのぞいてみると、何とも素朴さを感じる造りだ。丸いハンドルのようなものは「手ブレーキ」であろうか。
二つの客車の通路をつなぐ「渡り板」も、なんとなく心もとないような鉄板である。簡単な柵しかないデッキ部分は、気持ちがいいといえばその通りでもあるが、小さな子ども連れの場合は転落事故などに十分注意しなければならない。
日本社会と違い、自己責任原則はあらゆるシーンでの危険予知ともつながっている。特に子どもは未熟な存在として、大人や社会が積極的に、時には強制力を持って守らねばならない。


一つ目の駅に停車する。
出発時、「二つ目の駅でおりますから、間違えないように」といっていたツアーバスのドライバーの注意を思い出しながら、同じバスで顔なじみになっている人々とも、なんとなく目で確認しあいながら発車を待つ。
うむ、それでは謹んで、通過駅の写真でも撮っておこう。駅名は「プウコリイ」か。
耳にしたことの無い駅名だが、中間駅ならではのマイナーな名前だ。

と、ツアー客がなにやら落ち着かない様子だ。夫婦連れが座席から立ち上がりかけている。
「アンタ、運転手さんが下りるのは2つ目の駅だっていってたじゃない」
「いや、ここが終点らしいぞ」
見ると、前の客車の人々も腰を浮かせて行動が定まらないようだ。
母は周囲の様子を見て群集心理的に「下りにゃいかん」という。
「だからぁ、2つ目だって言ってたじゃねぇか」と私。
しかし、どうやらここが終点のようだと悟ったとき、さとうきび列車のほとんどの客は下りてしまっていた。なんだかキツネにつままれたような気分である。
いったい、ここまでの区間で停車したところなどあっただろうか...。

どうやら、さっきのカアナパリ・ゴルフ・クラブを抜けたあたりにカアナパリの駅があったようだが、そこは停車せずに通過していったようだ。
旅にはこういうこともある。
今回は終点だったのでよかったが、番狂わせというか、行き違いというか、そういうことが旅にはつきものだ。とはいえ、ツアーバスと合流できなければ、ちょっとした騒動になってしまう。
ツアーバスの運転手は決してウソは言っていない。通過駅となるカアナパリの駅に停車するかどうかは、まぁ知ったことではないのである。

それにしても多くの観光ガイドブックでは、さとうきび列車は「ラハイナ」と「カアナパリ」を結んでいると書かれていることが多い。少なくとも今回の体験では、カアナパリの先の「プウコリイ」までを結んでいる、と確認したということになる。
いやはや、これが国内旅行のツアーであれば、クレームに発展しかねないところである。
カフルイ空港まで移動し、18:38発のホノルル空港行でワイキキ方面へ戻る。

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