花ぷら

花ぷら10(2008/2)

この「花ぷら10」は、筆者の一人旅の様子を描いた「花ぷら」シリーズのひとつです。 前回は昨年2007年の春、兄とその娘二人を、はじめてのハワイへ案内する旅でした。
個人的には、ようやく実現した今回のハワイ一人旅。やはり一人旅は私にとって、究極の自由時間なのだと実感します。
ほんとうは2月9日の土曜から出発して、少しでも滞在日数を長くしたかったのですが、ANA の航空券が1月末になってもキャンセル待ちのままで、不安になった私はそれを解約し、11日(月・祝)に出発するノースウェスト航空のチケットを取ったのです。

2008年2月11日、月曜日。
今日は建国記念の日ということで、あすの火曜から金曜まで4日間、会社を休む。ハワイへ行く時はたいてい ANA を利用することが多いが、今回はノースウェスト航空で行くことになった。成田発着便だ。今回は私にとっては心浮き立つ一人旅なので、ちょっと小道具も事前に準備している。


東京駅の地下ホームから、成田空港行きの特急「成田エクスプレス」に乗ろう。14:03発だ。ホームに立ってみると、日本人以外では欧米人よりも韓国・中国の観光客が多い気がする。
この列車は二つの列車が違う駅を出発し、この東京駅で連結されて成田空港へ向かう。そのため、ホームの客たちが見守る前で、列車の連結作業が行われる。連結位置には子供を連れたお父さんたちなどがいっぱいだ。

連結作業は昔に比べ、恐ろしく素早く、そして安全に行われる。連結器も進化しているし、列車を超低速で制御する技術も進んでいる。期待して待っていたわりには、あっさりと連結作業が終わり、作業員は指さし確認の後、サラッとどこかへ行ってしまった。


2月上旬、関東はまだ暖かいとはいえない季節だ。 先週ユニクロで買ったジーパンと、2~3年前にイトーヨーカドーで買ったボタンダウンのシャツ、その上にやはりユニクロで買った薄手のハーフコートを着て、車内に乗り込む。靴は黒のビジネス・ウォーキング・シューズだ。 デッキ付近にあるラゲッジスペースにスーツケースを入れ、指定された席に座る。
この列車は全席指定だ。指定券が売り切れた場合は、510円引き(※)の「立席特急券」も発売されるようだ。 と、列車がバックしだした。いや列車はちゃんと成田へ向かい始めたのだが、座席が後ろ向きに固定されているのである。

グリーン車を除く一般車両のリクライニング・シートは、車両の中央へ向かって固定されている。つまり車両中央の席だけは「お見合い席」のようになっているわけで、こういう座席配置は 「集団見合型」と呼ばれるらしい。以前、東海道・山陽新幹線で悪評が高かったのは、「集団離反型」と呼ばれる固定リクライニングシート だった。私が高校の時に、修学旅行へ行った際の車両がそうだった。
未来的なデザインの江戸東京博物館を車窓に見送りながら、後ろ向きに成田空港へ向かう。

※510円引き
通常期の指定席特急料金から510円引きである(→JR 東日本)。


車内販売が回ってきたので、コーヒを買う。そういえば、さっき車内販売の利用を促すアナウンスは、日本語の後に英語でも行っていた。 300円のコーヒは紙コップに入れてくれるのだが、東海道新幹線の車内販売のものとは違い、フタをしたまま飲めるタイプではない。
車内販売をしている女性は、なんとなく旅客機の CA を意識したような雰囲気を漂わせている。そういえばこの列車自体も、座席頭上の荷物入れなどが、旅客機のオーバヘッド・コンパートメント(※)を意識したデザインとなっている。

江戸川を渡り、船橋、千葉と総武本線を東へ進む。特に千葉を過ぎると風景はグッと彩度が低くなる。千葉までの主要な駅のあたりには、たいていビルが立ち並び、商店の看板なども賑やかだ。駅間にも住宅やオフィス、公共施設などがたくさん見られる。しかし千葉駅を過ぎると、なんとなく寂しげな冬の田畑や山林の風景となる。

ハワイ行きの便は夜出発なので、たいてい日差しが赤みを帯びてくる頃にこのあたりを通過することになる。それでよけいに寂しげに感じられるのかもしれない。夕暮れの寒々とした田畑や山林を眺めていると、つい横溝映画(※)を思い出してしまう。

※オーバヘッド・コンパートメント
旅客機の座席頭上にある、手荷物を格納する棚。いろんな呼ばれ方がある。ボーイングでは、「オーバヘッド・ストウェッジ」と呼んでいるようだ。昔は帽子を置く棚という意味か、「ハット・ラック」という呼び方もあったようだ。いやしかし、「座席頭上」と自分で書いておきながら、どうしても「座頭市 (ざとういち)」に見えてしまって仕方がない(→ Boeing )。

※横溝映画
自分が幼少のころ疎開していた兵庫県で、周囲の人々から見聞きした話をモチーフに、多くの怪奇な推理小説を書いた横溝正史の原作による映画。「犬神家の一族」、「本陣殺人事件」、「八つ墓村」、「獄門島」、「病院坂の首縊りの家」などがよく知られている。彼の作品はいろんな監督によって映画化されたり TV ドラマ化されているが、市川昆監督によるものが特に有名。いまでも年末の NHK-BS で毎年放送されている。また主役の私立探偵金田一耕助もいろんな俳優が演じているが、石坂浩二のものが特に評価が高い。というか、監督が市川昆だと自動的にキャスティングは決まってくるのだ。そういえば、「男はつらいよ」でフーテンの寅さんを演じた渥美清も、野村芳太郎監督の八つ墓村で金田一耕助をやっている。このときは原作を少し変えた本(=脚本)となっているが、より恐ろしさが強調されており、このときの書き換えは成功だったといえる。 横溝作品というと残虐なシーンや「たたりじゃー」など、おどろおどろしい部分ばかりが話題にされることが多いが、本質的には人間の業のようなものと、その人間が作る閉鎖社会 (特に昭和初期の日本の寒村)に内在する、ある意味避けようのない悲しい物語なのではないかと思う。 というか、脚注でこんなに長い文章になってすいません。


列車はまず「空港第2ビル」駅に停車し、ちょっと走って終点の「成田空港」駅に着く。改札を抜け、つづけてすぐに、空港ビルへ入るためのパスポート検査を抜ける。ビル内に入ると、いつものように警備の警察官が楯と長い警棒を持って入場者を監視している。左手にはスターバックス・コーヒがあり、スーツケースをもった客たちがひと息ついている。

数日前、ハワイで使うためのレンタル携帯電話を予約してある。私がふだん使っているケータイに電話がかかってきても、ハワイに転送されるので便利だ。その電話機を受け取るために、まずはその指定の場所へ向かおう。
今回は対面での受け取りではなく、「ボックス」を使っての受け取りを指定してある。行ってみると小さなコインロッカーのような鍵付きのボックスが並んだ設備がある。酔っ払って終電を逃したときに泊まる、サウナで目にする下足箱のようだ。しかし、仕組みはなかなかすごいものがある。

事前予約の際、予約確認情報は二次元バーコード( QR コード)の画像としてケータイに送られてくる。受け取り当日は、このバーコードを読み取り機にかざして暗証番号を入力すれば、海外用端末が入ったボックスのカギが解錠されるという仕掛けだ。

   

海外用端末ほか一式が入ったバッグを取り出したら、つぎは自分が使っているケータイから IC カード(※)を取り出して、海外用端末に差し込まねばならない。といってもまだ便の出発までは時間もあるし、だいたいここで急いでカードを差し替えてもほとんど意味はない。

ドコモの「FOMA」、au の「CDMA2000 1x」や「CDMA 1x WIN」、ソフトバンクの「SoftBank 3G」などはすべて、第三世代と呼ばれる通信技術で動いている。ところがハワイでは、いまだに第二世代の通信方式である GSM が主流である(※)。

この、青いボディのレンタルケータイ N900iG は、日本のドコモが採用している第三世代方式のひとつ W-CDMA と、海外で普及している第二世代 GSM 方式の両方に対応している。数年前まではこのようなデュアルモード端末は非常にめずらしかったのだが、いまでは国内主要キャリアから何機種か発売されている。

※IC カード
通信技術で区分した「世代」や通信キャリアによって、SIM カード、UIM カード、U-SIM カードなどと区分されて呼ばれる。親指の爪ほどの IC カードに入っている基本的な情報は、回線契約情報である。これ一枚あれば、気分や用途に応じて複数の携帯電話端末に差し替えて使うことが可能である。もともとは第二世代の GSM という方式で行われはじめたしくみで、ヨーロッパのように一定範囲に多くの国々が存在する地域では、出張や旅行時にローミングがしやすいということで重宝されている。しかし日本の第二世代においては、このような仕組みを意図的に採用しなかったため、日本の携帯電話利用者は、回線契約と端末購入のセット販売しか選べなくなった(たとえば回線はドコモに加入し、端末は au ショップで売ってるやつにする、なんてできないということだ)。
第三世代になって、この IC カード方式が日本でも採用されるようにはなったのだが、回線契約した通信キャリアが販売している端末同士でしか使い回しができない(「SIM ロック」という)。 そういうわけでやはり、ディズニーの端末がどうしてもほしい場合、回線契約もディズニーモバイルと結ばねばならない。
ちなみにご存知の方も多いと思うが、ディズニーモバイルは電話回線そのものを自前で持っておらず、ソフトバンクモバイルから回線を借りて商売する「MVNO (Mobile Virtual Network Operator)」である。ただこの提携においては、回線だけでなく実際の店舗展開やユーザサポートもソフトバンクモバイルが行っており、料金体系もほぼ同じだ。したがって厳密には、端末(携帯電話機)と、コンテンツサービス(ディズニーの音声や動画)にのみディズニーらしさが存在しているといえそうだ。そういや、両サービスのホームページの基本デザインがよく似てますな。個人的には「スタジオ・ジブリ・モバイル」なんて MVNO があったら MNP するかも(MNP= Mobile Number Portability =電話番号を変えずに他の携帯電話キャリアへ移行できるしくみ) 。

※GSM が主流
ワイキキホテル街あたりのごく狭い範囲で、W-CDMA 方式のサービスが始まったようだ。しかし厳密にはドコモが日本国内でサービスしている W-CDMA とは周波数が一致しない。国が違うため割り当てられる周波数帯域にも違いがあるためだ(日本は総務省、米国は FCC)。2008 年 2 月現在、日本でもこのワイキキホテル街の狭いエリアでも使える端末は、SH905iTV のみである(→ NTT DoCoMo)。

※補足
2008 年 5 月上旬、ワイキキホテル街だけでなく、アラモアナ・ショッピング・センター、「この木なんの木」で知られるモアナルア・ガーデン、ラニカイ・ビーチなど主要な観光エリアで、SH905iTV による音声通話とパケット通信(i モード)が可能なことを確認しました。


そういえば、ハワイであちこちする際に必要になる名刺を、まだ作っていなかった。ビジネスセンターのサービスを利用しよう。そのまえに念のため、レンタルケータイ一式が入ったバッグの中身を全部出し、内容物を確認する。いまどきの日本のケータイと違い、N900iG はバッテリの消耗が激しい。現地でも、毎晩寝るときには充電しなければならないほどだ。そのためか予備のバッテリパックも入っている。

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